I am not perfect but I am LIMITED EDITION (後編)

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コウちゃんがタイに来た理由。それは日本という国が住みにくいから。簡単に言えばそれだけ。でも、そう感じている人が今の日本に何人いるのだろう。
 
 

本日のFeeling Radio

記事のBGMにどーぞ。

 

Pharoah Sanders -『You’ve Got To Have Freedom』- live

 
 

70歳からの日本の捨て方

年間3万に達する自殺者数を考えれば容易に想像が付く。じゃぁ。ということで環境を変える。それが国を離れたとしても。年齢が幾つであろうと。自分の持てる才能をフルに活かし、行動に移し、試し、経験し、失敗し、笑い、楽しむ。
 
 
そんな70歳はなかなかいない。
 

 逆転した世界

コウちゃんは高校を卒業後、某有名自動車会社に就職する。それはそれは有名な。でも本人曰く、60歳になるまでほとんどウツ病だった。それは死にたいと思うほど。
 
 
自分の思う様にも、認めてもらうこともない世界。なんとか勤め上げ退職。そして、あるきっかけからパッと悟りとまでは言わないが、何か開けたらしい。
 
 
「今まで思い煩っていたことが皆くだらなくなったの。何でもいいじゃんて。モヤが晴れた感じだよ。そうしたらお前すごいよ!病気は治るは、歯槽膿漏は治るは、下の毛まで黒くなって来た!笑。 まず身体が反応するの」
 
 
 
自分でもウツが明けたのが自覚できたらしい。今では考えられないが、ウツが明けるまでおとなしく、コンプレックスに悩んでいたコウちゃん。ウツが明けた途端にまぁ喋る喋るで、兄弟親戚にまで下ネタが言える様にまでなる。
 
 
驚いたのは身内側。どうやらおかしくなってしまったと、コウちゃんを上手く言いくるめ精神病院に入院させる。
 
 
「謀ったなぁ!」
 
 
当時のコウちゃんの言葉である。
 
 
ここが、聞いてて面白いと言って良いのか分からんが、ウツウツとしていたサラリーマン時代。死を考えるほどの精神状態ですら社会に出ていた40年。ウツが明け、自分らしさを全力オープンに出して生き始めた途端、精神疾患のレッテルを貼られ、入院させられてしまうという、何だか逆転した世界観。何が健常で何が異常なのか分からなくなる。
 
 
「それが今の日本の社会なのっ!」
 
 
眉間にしわを寄せ喋るコウちゃん。理解されないという気持ちが根底にあるように見える。
 

明け→再発→明け

そして、意味も分からず2ヶ月で退院。その後、67歳にして日本でタイ人の恋人ができる。なにせ全力オープン。「タイは良いところよ」と言われたから行ってみたという初めてのタイ1人旅。この経験でタイに魅了され今に至るらしい。
 
 
余談だが、この初タイ旅行。タイを何も知らないコウちゃん。一人言葉もよく分からない異国の地。空港に着き、適当にタクシーで移動。降りた先でホテルを探すも何故か断られ、結局初日から公園で野宿をする。未だにどこで降りたか、何でホテルに断られたかは不明らしい。
 
 
「わぁかんねぇよ!とりあえず公園あったからそこで寝たの」
 
 
旅の仕方もワイルドだ。
 
 
しかもその後、たまたま宿泊したホテルで知り合ったタイ人の夫婦に、総額60万ほど騙し取られてしまう。何だかんだお世話したから、と言う理由で。
 
 
「別にもうワダカマリもないよ。そう言う文化ってことでしょ。ただ、その後、日本に帰ったら嫁が、その借金のせいでノイローゼになって、俺が周りから責められてよ。で、ウツが再発よ」
 
 
60代からの精神的ジェットコースター。
 
 
そこから3年ウツに苦しみ、一時ストレスで血圧が200まで上がってしまった。
 
 
「でも、不思議だよ。ある人から『河野さん。私にとって河野さんは、必要な存在なんだってことが分かりました』って言われたの。そしたら、アレェ?ウツが治っちゃった!血圧も下がちゃうしな!」
 
 
コウちゃんは言う。
 
 
「ウツ病はね、誰にも必要とされていないと思って自分を責め出すとなるの!」
 
 
ウツは真面目な人がなりやすいなんて話を聞くが、ピュアで敏感な人がなりやすのかもしれない。自分を認めてくれる人、必要とされる場所を求めた結果、何も日本にこだわる必要はないとなっただけ。
 
 
「ただ逃げてるだけなんだけどな!」
 
 
と言うコウちゃんに、君子危うきに近寄らずって昔の人が言ってるよと言うと、
 
 
「御釈迦様もね、自分の身の安全をまず考えろって言っててね」
 
 
とコウちゃん節。何とも面白い。
 
 

バンコクの一休宗純

「コウちゃんさぁ、今悩みとか、不安とかあるの?」
 
 
気になるところである。なんて答えてくれるのだろう?
 
 
「ん〜。金のことは少しな」
「あ、そ〜なんだ!金のことは少し不安感があるんだ!」
そう僕が言うと、
「でもよ!こっち来て1日30バーツで過ごしたろ。それで分かったのが『あ、死なねぇな』って 笑。自信ついちゃったよ。だから、今なぁ〜にも怖いことない。まぁそん時は6キロ痩せたけど、この方が男前じゃねぇかって!だぁっはっは!」
 
 
 
悩みも不安も恐怖もない世界。ただの悟りじゃないっすか!
 
 
悟りと言えば、ずっとコウちゃんに似てるなぁと思っている人がいる。室町時代の臨済宗の僧、詩人である『一休宗純』。ご存知アニメ一休さんのモデルとなった人。
 
 
この一休宗純さん、まぁぶっ飛んだ破天荒な坊さん。男色はもとより、仏教の菩薩戒で禁じられていた飲酒・肉食や女犯を行ったり、寒いからつって仏像を火にくべて暖をとったり、70代、80代の詩で「美人の淫水を吸い・・・」とか言っちゃったり、2回ほど自殺未遂しちゃう人。
 
 
このぶっ飛んだ奇行言動は当時の仏教の権威や形骸化を批判・風刺していると言うが、ある意味当時の社会常識や思い込みに対して『問い直し』をした人なんだろうと思う。
 
 
「コウちゃん一休宗純て知ってる?俺が好きなお坊さんで、ちょっと似てるんだよね。俺はコウちゃんをバンコクの一休宗純と思ってるよ」と言って人物画を見せる。
 
「俺こんな顔してるかぁ?」
と言って笑っていたが、一休さんの奇行言動の話は興味深そうに耳を傾けて聞いてくれていた。

Old Gui-Dance!

そんなコウちゃんに、僕は言われていることがある。実は前回書いたヒンドゥー寺院に行く約束をすっぽかしてしまっていた。しかも2回。理由は単に寝坊。あちゃぁ!と思いつつ、お詫びも込めビールを土産に会いに行くと、
 
 
「わかってたんだよ!お前はB型だろ!?約束なんかできないんだからしちゃダァメ!キリストもね・・・」
 
 
と怒るどころか、笑ってまた遊んでくれる。そんなコウちゃんが大好きですよ。僕は。ってことで僕は約束を守れないので約束しないことにします。行きたい気持ちはありますが約束はできませんスタイルです。逆の立場になっても僕は怒りません!きっと。。。
 
 
 

『I am not perfect but I am LIMITED EDITION』???

そんな関係性も僕のタイのビザが切れる5/3が最後となった。翌日早朝カンボジアへ抜ける。最後の日、いつもの場所へいつもの時間に行ってみる。やってるやってる。本日もご盛況のご様子。
 
 
近寄って来る僕に気付き、そっとマラカスを置くコウちゃん。僕のタイ最終日だからと「ビールおごるよ」なんて気前良いことを言ってくれる。カッコイイっすね!その際に、僕が今まで撮ったコウちゃんの写真を見せ、ブログ掲載の許可をもらった。
 
 
「なんか自分の写真は好きじゃねぇなぁ」
 
 
そんなこと言ってた。
 
 
でもきっと昔のコウちゃんみたいに、現実に窮屈さを感じている人がコウちゃんの存在や経緯を知ったら少し楽になったりするんじゃないかな?国も年齢も飛び越えて、ただ自分らしくいられる場所で情熱的に生きてる人がいるって知ったら。文句や大口を垂れるだけじゃなく、思考と行動が伴って、実際に今ハッピーな70歳を。僕はリスペクトしてますよ!そう伝えると。
 
 
「それはそう」
 
 
と照れ隠しなのか、真面目な顔で小さくうなずいていた。そして、その日に着ていたTシャツが気になった。タイトルにもある『I am not perfect but I am LIMITED EDITION』と書かれたTシャツ。
 
「コウちゃん、そのTシャツの意味わかって買ったの?」
「知らねぇよ!上はこれ『私は完璧じゃない』ってことじゃないの?」
「そうそう!で、下の『LIMITED EDITION』って意味が俺も分からなかったから調べて見たの!そしたら、『限定版』とか『数量限定』とかって意味だって!」
「なぁんだよ!俺のことじゃねぇか!だぁはっは!」
 
 
意味も分からず手に取ったTシャツ。だけども、なんともコウちゃん本人をうまく言い当てている。そして全ての人にも言えること。
 
 
『I am not perfect but I am LIMITED EDITION』
 
 
完璧ではない唯一無二のオリジナル。
 
 
二人で大笑いした。
 
 
そして休憩を終えたバンドが音を作り出す。コウちゃんもマラカスを持ってゆっくり立ち上がる。そして、いつものように盛り上がりの輪の中に吸い込まれていく。それがカオサンいつもの風景。
 
 
 
 
 
 
コウちゃんの新たな生き方を陰ながらではありますが、応援しております!! 
 
 
 
 
 

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